但馬牛とは?
但馬牛(たじまうし、または、たじまぎゅう)は、兵庫県北部(但馬地方)で古くから育てられてきた和牛の一種です。その歴史は長く、平安時代の書物にも記述が見られるほどです。
但馬牛の歴史:純粋な血統の維持

但馬牛の大きな特徴は、その純粋な血統にあります。他の地域の牛との交配を避け、長年にわたり改良を重ねてきました。特に明治時代からは、美方郡で日本初の牛の戸籍にあたる「牛籍台帳」が整備され、徹底した血統管理が行われてきました。
この閉鎖的な環境と徹底した管理により、但馬牛ならではの優れた肉質が守られてきたのです。
和牛のブランド牛の多くが、実はこの但馬牛の血を引いていると言われています。
特にという雄牛は、現在の全国の黒毛和牛の99.9%の祖先にあたるとされ、和牛肉の原点とも言える存在です。
但馬牛と神戸牛の違い
「但馬牛」と「神戸牛(神戸ビーフ)」はよく混同されますが、明確な違いがあります。
- 但馬牛(たじまうし・たじまぎゅう): 兵庫県内で生まれ育ち、一定の基準を満たした黒毛和種の牛、またはその肉を指します。
生きている牛を「たじまうし」、食肉になると「たじまぎゅう」と呼び分けることもあります。 - 神戸牛(こうべぎゅう・こうべビーフ): 但馬牛の中でも、さらに厳しい基準をクリアしたものだけに与えられる称号です。例えば、肉質等級がA4またはB4等級以上で、脂肪交雑のBMS値がNo.6以上といった細かい規定があります。
つまり、「神戸牛」という種類の牛がいるわけではなく、最高ランクの但馬牛が「神戸牛」として認定されるのです。
全ての神戸牛は但馬牛ですが、全ての但馬牛が神戸牛になれるわけではありません。
但馬牛の美味しさ:すき焼きに最適な理由

但馬牛は、きめ細かいサシ(霜降り)と赤身のバランスが絶妙で、口に入れるととろけるような食感が特徴です。
この肉質は、すき焼きに非常によく合います。
- 柔らかさと風味: 但馬牛のサシは融点が低いため、すき焼きのように加熱するとすぐに溶け出し、肉をより柔らかく、風味豊かにします。
- 旨味: 肉本来の旨味がしっかりしており、野菜や豆腐などの具材と一緒に煮込むことで、全体の味わいを深めます。
ステーキもおすすめですが、但馬牛の柔らかさや風味を堪能するには、すき焼きも最適な調理法の一つと言えるでしょう。
但馬牛の歴史は古く、1200年にも及ぶとされ、もともとは田畑を耕したり荷物を運んだりする「役牛(えきぎゅう)」として人々の生活を支えてきました。
その力強さから、豊臣秀吉による大阪城築城の際にも活躍したと伝えられています。
険しい山々に囲まれた但馬地方の地理的な条件が、他の地域の牛との交雑を防ぎ、純粋な血統を守ることに貢献しました。
但馬牛の血統改良に尽力した人物として、江戸時代末期に優れた雌牛の系統「蔓牛(つるうし)」の確立に貢献した前田周助や、名牛「田尻号」を育て上げた田尻松蔵が知られています。
今日、松阪牛や近江牛、米沢牛といった名だたるブランド和牛の多くが但馬牛を素牛(もとうし:繁殖用や肥育用の元となる牛)としており、全国の黒毛和牛の約85%以上、一説には99.9%が但馬牛の血を引いていると言われています。
但馬牛と神戸牛のさらなる違い
「神戸牛」という名称は、実は生きた牛を指すものではありません。但馬牛が食肉処理され、格付けされる過程で、特に厳しい基準を満たした牛肉だけが「神戸牛」として認定されます。
この基準には、肉質等級やBMS値に加え、枝肉重量の規定(未経産牛で230kg以上470kg以下、去勢牛で260kg以上470kg以下など)も含まれます。
歴史的には、「神戸肉(こうべにく)」や英語の「Kobe Beef」という呼び名が先にあり、後に「神戸牛(こうべぎゅう)」という呼称も正式に加えられました。
これは、神戸を訪れた外国人たちが但馬牛の美味しさに感銘を受け、「KOBE BEEF」と呼んだことが始まりとされています。
現在、「神戸ビーフ」や「但馬牛」は地理的表示(GI)保護制度によって国に登録されており、その品質が保証されています。これらのブランドは神戸肉流通推進協議会によって厳格に管理されています。
一般的に、より厳しい基準をクリアする必要がある神戸牛は、但馬牛よりも高価になる傾向があります。
味わいについては、神戸牛は安定して繊細で上品な風味ととろけるような食感が特徴とされる一方、但馬牛はより力強い旨味や個体による風味の多様性が楽しめると言われています。
但馬牛の美味しさの秘密:科学的な側面と肉質
但馬牛の美味しさの秘密の一つに、脂肪の融点の低さがあります。一般的な黒毛和牛の脂肪が約25℃で溶け始めるのに対し、但馬牛の脂肪(特に「但馬玄(たじまぐろ)」と呼ばれる特別な但馬牛)は約12℃という低い温度で溶け出すため、口の中でとろけるような食感と、さらりとした後味を生み出します。
この脂肪には、旨味成分であるアミノ酸や、健康にも良いとされるオレイン酸が豊富に含まれていることも特徴です。
但馬牛は、もともと農耕用として飼育されていたため、小柄で骨が細く、引き締まった良質な筋肉繊維を持っています。
皮下脂肪や内臓脂肪がつきにくい体質でありながら、肉の中に美しいサシが入りやすい遺伝的な特徴も持ち合わせています。
こうした肉質が、但馬牛ならではの深い味わいと優れた食感に繋がっているのです。
興味深いことに、但馬牛がこれほど美味しい肉質を持つようになったのは、必ずしも最初から食味を追求して改良された結果ではなく、厳しい自然環境と農耕作業に適応する中で育まれた特性が、現代の食の嗜好と幸運にも合致した側面もあると言われています。
ただし、近年では全国的に霜降り重視の育種が進んでおり、但馬牛もその影響を受けつつあります。
しかし、その本質的な美味しさは、長い歴史と血統によって守られています。